・No.28「TRUMP」2/8/05
大西洋に面したアトランティック・シティー(Atlantic
City)。ニューヨーク近郊に10kmも続く海岸線を有するこの街は、1890年頃にはすでに豪華ホテルが並ぶ大リゾート都市でした。しかし、高速道路が整備され、誰もが手軽に航空機を利用できる時代になると観光客は全米の街へと散っていき、この巨大リゾート都市は瞬く間に衰退の道を辿ります。観光資源に依存していたニュージャージーは、苦肉の策としてカジノの公認へと踏み切ります。そして1993年には州の観光収入における賭博収入の割合が25%を締め、ラスベガスのそれを越える勢いにまでなりました。
アトランティック・シティーにいくつものカジノ・ホテルを持つドナルド・トランプ(Donald
J. Trump)は、1956年、ニューヨークの住宅開発会社を経営するフレッド・トランプの次男として生まれました。子供の頃から父親の仕事に興味を持ったドナルドは、大学生になる頃にはすでに不動産取引を始めていたそうです。大学を卒業すると本格的に経営に参加しました。カリフォルニアで掘り出し物の不動産を探し歩き、政府からの不動産抵当融資を使って買い取っていました。つまり、現金はほとんど使わない取引をしていたのです。
当時ドナルドが扱っていた物件は中流といわれる人たちにも手の届く物件ばかりでした。時には賃借人が家賃を踏み倒して逃げるような安アパートさえ扱いました。そんな不動産取引は自分には向かない、ニューヨークに出てゴージャスな高層ビルの取引をしたい。こうして26歳でマンハッタンにオフィスを構えたドナルドは、運転手付きのキャデラックに乗ってニューヨークの街で物件探しをはじめたのです。このときのクルマのナンバープレートは彼のイニシャル「DJT」。後に自分のビルばかりかプライベイト・ジェットやヘリコプターの側面にまで大きく「TRUMP」と文字を入れる「自己ブランド化」作戦は、このとき早くも始まっていたのです。
ドナルドが最初に手がけた大きな取引はコモドール・ホテルでした。グランド・セントラル駅に隣接するこの古びたホテルの権利を40万ドルで手に入れたのです。1976年当時のニューヨークは不況下にあり、グランド・セントラル駅周辺のホテルはどこも倒産寸前という有様でした。それでもドナルドは「この駅には何千人もの人々が出入りしている。ここは有望な土地だ」と言っています。
問題は税金でした。駅周辺の土地の固定資産税はとても高額で、ホテル・ビジネスではとても採算はとれそうもありません。地域再開発を名目にしても、個人の不動産開発業者には、それほどの減税措置は期待できません。そこでドナルドは考えました。まず自分でホテルを買い取り、それをニューヨーク都市開発公団に長期ローンを組ませて売る。そしてホテルを開発公団から賃貸として借りる。つまり、ホテルを市の所有物にし、自分はそこから借り上げてホテルを運営する。これで年間400万ドルの固定資産税は40年間免除されることになる。つまり、1億6000万ドルの得だ。ちなみにドナルドが支払う年間の賃貸料は25万ドルだったそうです。
しかし破綻寸前のホテルに融資してくれる銀行は少なく、ドナルドは資金繰りに苦労しました。それでも強引なまでの交渉術でいくつかの融資をとりつけ、一方、建設費は徹底的に押さえ込んだのです。「強気な交渉」「税金のがれ」と非難されながらも、やっとのことで完成させたホテルは「グランド・ハイアット」と名を変え、大理石のテラス、ブロンズの円柱、4階まで吹き抜けのサン・ガーデンなど、その豪華な建築でニューヨーカー自慢のホテルのひとつになりました。
さらにドナルドはニューヨークの五番街に超高級コンドミニアム「トランプ・タワー」を建てると、奇抜な宣伝方法で1室50万ドルから1200万ドルで売りさばき、オフィス・スペースにはカルチェやバラセッティなどの一流ブランドをテナントとして迎え入れました。そしてアトランティック・シティには「トランプズ・キャッスル・ホテル&カジノ」を展開、38歳の時の純資産は推定4億ドルにもなっていました。
その後、92年には不況のあおりで自己破産寸前にまで追い込まれたこともありましたが、持ち前の押しの強さで再び成功物語を再現、2001年には90階建ての高級コンドミニアム「トランプ・ワールド・タワー」を竣工するまでに復活しました。最近、カジノ事業が再び破綻しましたが、ドナルドの総資産からすれば、大した痛手ではないようです。
「The Apprentice」
ドナルド・トランプがプロデュースするテレビ番組「The
Apprentice」がアメリカで大人気です。Apprenticeとは「見習い」のこと。出世をかけて集まったビジネス・エリートたちが、トランプ氏から出される課題をこなしながら競い合います。
参加者は男女2チームに分かれてトランプ・タワーのスイートルームに泊まり込み。毎週さまざまなビジネスをこなして、売り上げを競い合います。第一回目はなんと、アメリカの子供達が夏休みにやる定番のお小遣い稼ぎ「レモネード売り」でした。他にもジェット機の広告コンテストやフリーマーケットで売り上げを競い合いました。勝利したチームには豪華なご褒美が用意されているのですが、負けるとトランプ氏に呼び出されて、「なにが問題だったか」「責任者は誰か」を追求されます。そして戦犯となった1人が毎週「クビ」になるのです。
最後に残った勝者はトランプ氏の元でビジネスを習いながら1年間働くことができるのですが、番組のおもしろさはやはり「次は誰がクビになるのか?」です。チーム内での責任のなすりつけ合いや、アメリカ人ならではの自己主張は、たまにちょっと見苦しいことさえありますが、最後に閻魔大王よろしくトランプ氏が指さしながら言い放つ「You're
fired」(お前はクビだ)のセリフが大流行、2003〜2004年の全米流行語大賞になりました。
趣味の善し悪しや好き嫌いはあるでしょうけれど、ドナルド・トランプがただ者ではないことだけは確かです。ボクが彼に惹きつけられたのは、インタビュー記事のこんな話を読んだときでした。不動産の暴落で92億ドルの借金を抱えていた頃についての話です。
インタビュアー
「あれだけの借金を抱えて、毎日心配ではありませんでしたか?」
トランプ
「心配なんかしている時間があったら、 どうやってこの苦境を乗り越えるのか考えるんだ」
★ Website
「Trump Organization」
ドナルド・トランプっていったい誰よ? という方、まずはこのサイトで彼のド派手さを体験してみてください。 |
バックナンバー
・創刊号 7/27/04
「どうしてこんなにアメリカが好きなのだろう?」
・No.01「THE KING」 8/3/04
・No.02「Chasers 追跡者たち」8/10/04
・No.03「オズ」8/17/04
・No.04「ウォーレン・バフェット」8/24/04
・No.05「Manifesto Destiny」8/31/04
・No.06「UP and DOWN」9/7/04
・No.07「一攫千金」9/14/04
・No.08「THE DRIVE」9/21/04
・No.09「スタインベック」9/28/04
・No.10「バーバンクの魔術師」10/5/04
・No.11「フラミンゴ」10/12/04
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・No.13「Mickey D's」10/26/04
・No.14「世界の始まり」11/2/04
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・No.17「大統領への手紙」11/23/04
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・No.19「ボニーとクライド」12/7/04
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・No.21「Remember the Alamo!」12/21/04
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・No.49「The United Taste of America」7/5/05
・No.50「カリフォルニア・ワイン」7/12/05
・No.51「Ellis Island」7/19/05
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