US万次郎:「白人マイノリティー」


   

 メルマガ「アメリカ生活アドバイザーの随想」(7/27/04-7/26/05)を再編集したものです。

・No.39「白人マイノリティー」4/26/05

 ジャック・ケルアック(Jack Kerouac)は1922年3月12日、マサチューセッツ州ローウェル(Lowell, Massachusetts)で生まれました。フランス系カナダ人の移民が集まって暮らしていたこの街で、5歳になるまで英語に触れることもなく、カナダ訛のフランス語を話していたそうです。カソリックの母親を尊敬していた彼は、まじめで優しい少年でした。父親は印刷業を営み、一家は経済的に恵まれていました。しかし不況と共に事業は行き詰まり、父親がギャンブルに走ると家計は破綻、ジャックはフットボールの奨学金で高校に通いながら、保険業のアルバイトをして一家を助けていました。やがてフットボールでの活躍が認められてコロンビア大学へ入学が決まり、一家はニューヨークへと移り住みます。しかし大学のコーチとうまくいかず、試合にも出られない日々が続きました。失望したジャックは大学を辞め、海軍に志願したのです。

 軍隊を出てニューヨークに戻ったジャックは、そこで後にビートニクの代表選手と呼ばれることになるアレン・ギンズバーグやウィリアム・バロウズ、そしてニール・キャサディたちと出会います。駆け出しの小説家だった彼ら、反社会的な思想を持ち、時には麻薬や銃の不法所持で逮捕されたり、精神病院に送られる者もあるなか、ジャックだけはいつも一歩引いたところから冷静な目で仲間達を見ていたそうです。当時、彼らとつきあっていた人のなかには、こんな意見もありました。「安心してベイビーシッターを頼める相手を探そうとしたら、仲間の中ではジャックくらいしか信用できる人はいない」。

 そんな頃、ジャックはニールとふたりで幾度となくアメリカ放浪の旅をしていました。そして1951年、旅先で起こった様々な出来事を綴った小説「路上」(On The Road)をわずか3週間で書き上げます。すでにトマス・ウルフの回想録「町と街」(THE TOWN AND THE CITY)を出版し、作家としてデビューしていたジャックでしたが、この「路上」はどこの出版社からも見向きもされませんでした。

 やがて友人を訪ねてサンフランシスコに移り住んだジャックは、そこで禅詩人のゲーリー・スナイダーと出会い、仏教の影響を受けることになります。そして1958年「禅ヒッピー」(THE DHARMA BUMS)を出版。この頃から彼らは「ビート・ジェネレーション」と呼ばれるようになり、アメリカ文学界で注目を集めるようになります。出版社は彼らの書くものにことごとく興味を持ち、「路上」もようやく日の目を見ることになったのです。

 「路上」はベストセラーになりました。しかしジャックにとってこの作品は、彼の壮大な物語のなかの一部にしか過ぎなかったのです。世間はジャックをビートニクの祖として祭り上げ、文学評論家は、そんな彼を流行りものの作家としてしか扱わなくなりました。酒におぼれ、作家としての輝きを失っていくジャック。1961年に「ビッグ・サーの夏」(BIG SUR)を書き上げると、ひとりサンフランシスコを離れ、母親の住むロングアイランドへと戻っていったのです。

 後にジャックは母親を連れて再びローウェルへ戻りますが、すぐにフロリダへ移りました。そして酒のためにボロボロになり、1969年、47歳でこの世を去りました。

 ビート・ジェネレーションの代表作家として知られるジャック。しかしそれは彼の一面をクローズアップしたものでしかありません。幼年期から思春期の出来事をつづった「ドクター・サックス」や「マギー・キャシディ」、フランス旅行記である「パリの悟り」といった作品を並べてみると、彼の文学活動は、自分探しの旅であったことが伺えます。

 短い人生の中で幾度も街を移りあるいた生活。フランス系カナダ人の移民家庭で育ったジャックには、少年時代を過ごしたローウェルのカナダ人コミュニティ以外に落ち着ける場所はどこにもなかったのかもしれません。しかしフロリダへ移る前に訪れたローウェルでは、彼にとって居心地の良かった、古き良き時代はすでに終わっていました。失望したジャックはさらに酒におぼれ、失意のままに町を後にしたそうです。

 私の作品はプルーストの作品のように一つの巨大な書物を構成する。私の回想は病床で人生を振り返りながらではなく、人生を走り抜けながら書かれたものではあるが。初期の出版社の反対によって、私はそれぞれの作品で同じ登場人物の名前を使うことができなかった。「路上」「地下街の人びと」「達磨行者たち」「ドクター・サックス」「マギー・キャシディ」「トリステッサ」「荒涼天使たち」「コディの幻想」そのほか、この「ビッグ・サーの夏」をふくむ作品群はそれぞれ、私が「ドゥルーズ物語」と呼んでいる包括的な作品の1章ずつにすぎない。

ジャック・ケルアック 著 渡辺洋・中上哲夫 訳
「ビッグ・サーの夏」(新宿書房)より引用


 「ビートニクからヒッピーへ」

 物質主義、権威主義といったそれまでの社会のあり方に反抗し、自由奔放な旅を通して「本当の自分とはなんなのか?」を探し求めたジャック・ケルアックの「路上」。ヒンドゥー教やチベット密教に魅せられたアレン・ギンズバーグがサンフランシスコで発表した詩集「吠える」。このふたつが「ビート・ジェネレーション」の始まりだったといわれています。社会的緊張から解放され、神秘主義を信奉する彼らは「ビートニク」と呼ばれ、世の中から変態扱いされていました。しかし彼らの哲学は、その後のアメリカ音楽に大きな影響を与えていったのです。

 ジャニス・ジョプリンは自らを「あたしはビートニクで変人だった」と称し、ドアーズのレイ・マンザレクは「もし、ジム・モリソンが「路上」を読んでいなければドアーズは結成されなかっただろう」と語っています。またボブ・ディランはアレン・ギンズバーグやジャック・ケルアックの世界を音楽で表現していると言えるでしょう。

 60年代後半になると「ビートニク」という言葉は消え、彼らは「ヒッピー」と呼ばれるようになり、「モンタレー・ポップ・フェスティバル」そして「ウッドストック」へと活動は盛り上がっていきました。


★ Book

路上」 ジャック・ケルアック 著  福田 稔 翻訳 

 今日の話はなんだかよくわからなかったけど、面白そうだぞ!という方、まずはこの本を読んでください。

★ Website

ビックサー

 ビックサーの日本語による観光案内サイト。

バックナンバー

・創刊号 7/27/04
 「
どうしてこんなにアメリカが好きなのだろう?

・No.01「THE KING」 8/3/04

・No.02「Chasers 追跡者たち」8/10/04

・No.03「オズ」8/17/04

・No.04「ウォーレン・バフェット」8/24/04

・No.05「Manifesto Destiny」8/31/04

・No.06「UP and DOWN」9/7/04

・No.07「一攫千金」9/14/04

・No.08「THE DRIVE」9/21/04

・No.09「スタインベック」9/28/04

・No.10「バーバンクの魔術師」10/5/04

・No.11「フラミンゴ」10/12/04

・No.12「ラバ遣いが観た宇宙」10/19/04

・No.13「Mickey D's」10/26/04

・No.14「世界の始まり」11/2/04

・No.15「リーディング」11/9/04

・No.16「MEN IN BLACK」11/16/04

・No.17「大統領への手紙」11/23/04

・No.18「」11/30/04

・No.19「ボニーとクライド」12/7/04

・No.20「アポロ計画」12/14/04

・No.21「Remember the Alamo!」12/21/04

・No.22「What a Wonderful World」12/28/04

・No.23「KO」1/4/05

・No.24「Masters」1/11/05

・No.25「MTV cops」1/18/05

・No.26「フライヤー」1/25/05

・No.27「Sexual Elegance」2/1/05

・No.28「TRUMP」2/8/05

・No.29「WTC」2/15/05

・No.30「AMEX」2/22/05

・No.31「灯りが灯るまで」3/1/05

・No.32「Blues Bros.」3/8/05

・No.33「Indy 500」3/15/05

・No.34「ハーランドの受難」3/22/05

・No.35「The Music City」3/29/05

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・No.37「America's Cup」4/12/05

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・No.39「白人マイノリティー」4/26/05

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・No.42「Peanuts」5/17/05

・No.43「Chocolate Town」5/24/05

・No.44「Enterprise」6/1/05

・No.45「Amblin」6/7/05

・No.46「SETI」6/14/05

・No.47「」6/21/05

・No.48「ARPA」6/28/05

・No.49「The United Taste of America」7/5/05

・No.50「カリフォルニア・ワイン」7/12/05

・No.51「Ellis Island」7/19/05

・No.52「約束の地」7/26/05

筆者プロフィール  |  Contact:manjiro@usmanjiro.com
  

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