・No.44「Enterprise」6/1/05
スミソニアン航空宇宙博物館の「Steven
F. Udvar-Hazy Center」には、テスト飛行用に造られたスペースシャトルの1号機が展示されています。もともとアメリカ合衆国憲法発布200年を記念して「コンスティテューション」(Constitution)と名付けられる予定だったこの人類初のシャトルは、数千、数万というリクエストの手紙が届いたことから「エンタープライズ」(Enterprise)と命名されました。当時の大統領ジェラルド・フォードによる決定です。
人類の宇宙開発に新たな可能性をもたらすだろうと期待されたスペースシャトルの1号機の名前は「エンタープライズ」しかないと、アメリカ中から手紙を送ってきたのは「トレッキー」と呼ばれる人たちでした。「トレッキー」とは、人気SFテレビ番組「スタートレック」(Star
Trek)のファンたちのことです。
1966年に始まったこのテレビシリーズは、ウィリアム・シャトナー扮するカーク船長と、とんがり耳の異星人、ミスター・スポックを中心に、宇宙船「エンタープライズ」で人類未到の宇宙を旅する物語です。登場人物の個性的なキャラクター設定とコミカルな会話、細かな未来の技術設定や哲学的なストーリーでオタク心をくすぐり、全米にファンを生み出しました。しかしこのシリーズでは原作者のジーン・ロッデンベリー(Gene
Roddenberry)が本当に描きたかった、人類の無限の可能性と、平和をもたらす多様性を表現することはできなかったのです。
ジーン・ロッデンベリーは1921年8月19日、テキサス州エル・パソ(El
Paso, TX)に生まれました。青年時代をロサンゼルスで過ごした彼は、警察官であった父を見習って警察学校に入学しましたが、途中で航空工学を専攻するためにUCLAに編入、その後空軍に志願すると、アメリカが第二次世界大戦に参戦した頃には、士官候補生として訓練を受けるようになりました。そして少佐としてガダルカナル戦でB−17を操縦し、89もの作戦に参加したそうです。
戦争中、ジーンはすでに執筆活動を始めていました。いくつかの物語や詩を雑誌社や新聞社に売っています。そして戦争から帰ると、彼は飛行機事故の調査員や、民間航空会社のパイロットの仕事をこなしながら、コロンビア大学で文筆の勉強を続けていました。
そんなある日、アメリカにテレビが登場しました。それまで本や雑誌、ラジオしか知らなかったジーンは、この新しいメディアを目にしたとたん「テレビ業界には、まったく新しいタイプのシナリオライターの仕事があるに違いない」と確信したそうです。そしてパイロットとしてのそれまでのキャリアをあっさり捨てると、テレビの将来に賭けてハリウッドへと向かったのです。
ハリウッドでは、友達の薦めもあってロサンゼルス市警に務めました。警察官としての経験が、シナリオライターとしての仕事のネタになると考えたのです。そして開業したての小さなテレビ番組制作会社に売り込みを続けました。たいした制作費も持たないこのような制作会社なら、経験のない新人ライターを安く雇ってくれる可能性があったからです。
ジーンが巡査部長にまで昇格したころ、彼の脚本も売れ始めました。ライターとしての仕事が安定するとフリーランスとして独立、やがて人気テレビシリーズ「Have
Gun, Will Travel」のメイン・ライターにまでになりました。そしてこのシリーズで「Writers
Guild Award」を受賞すると、ジーンの脚本は「Have Gun, Will Travel」を担当する他のライターたちの手本として採用されたのです。
こうして人気ライターとなったジーンは1965年、「スタートレック」の台本をNBCテレビに持ち込みました。しかし内容があまりに哲学的すぎるという理由でボツになり、新たに書き直しを強いられました。そしてようやく番組の制作が許可されるまでには、個性的すぎるスポックを外すかどうかなど、局側とのさまざまな交渉があったそうです。結局、スポックこそが「スタートレック」の重要登場人物であるというジーンの主張が通りました。
1969年に「スタートレック」の放送が終了した後も、ジーンはさまざまな番組を手がけてきました。しかし「スタートレック」はいつしか国民的SF番組となり、ファンの間からは続編を待ち望む声がやむことはありませんでした。そして「スタートレック」の放送終了から18年後の1987年、ついに続編の制作が決まります。
「スタートレック・ネクストジェネレーション」(Star
Trek: The Next Generation)と題された新シリーズは、前回から1世紀後を舞台に、あらたな乗組員が「エンタープライズ」で宇宙を旅する物語でした。当初はカークやスポックがいないなんて「スタートレック」じゃないと不評でしたが、さらに個性豊かなキャラクターと、まるで現実の世界情勢を惑星連邦という異星人間のコミュニティーに再現させたような、奥の深いストーリー、そして人類の多様性をどこまでも追求した哲学は、またたくまにアメリカ中のトレッキーたちの心をつかみました。そしてこれこそが、ジーン自身が本当に表現したかった「スタートレック」の世界だったのです。
ジーン・ロッデンベリーは1991年10月24日に他界しますが「スタートレック・ネクストジェネレーション」は7年にも渡って放送が続けられました。その後も彼の意志を受け継いで「スタートレック・ディープスペース9」「スタートレック・ヴォイジャー」「スタートレック・エンタープライズ」とシリーズは続いていきます。
現在カーク船長の宇宙船「USSエンタープライズ」の模型は、ライト兄弟の「フライヤー」やリンドバーグの「スピリット・オブ・セントルイス」に並んでスミソニアン博物館に展示されています。そしてジーンの遺灰は、彼の遺言通り小さなカプセルに詰められ、今でも地球周回軌道をまわっていることでしょう。
★ Websites
「STARTREK.com」
スタートレックのオフィシャルサイト。
「スーパーチャンネル・スタートレック・シリーズ」
日本でも「スタートレック」が楽しめます。シリーズを心底楽しむにはちょっと予備知識を勉強する必要がありますが、まずはご覧あれ。 |
バックナンバー
・創刊号 7/27/04
「どうしてこんなにアメリカが好きなのだろう?」
・No.01「THE KING」 8/3/04
・No.02「Chasers 追跡者たち」8/10/04
・No.03「オズ」8/17/04
・No.04「ウォーレン・バフェット」8/24/04
・No.05「Manifesto Destiny」8/31/04
・No.06「UP and DOWN」9/7/04
・No.07「一攫千金」9/14/04
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・No.10「バーバンクの魔術師」10/5/04
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